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2022年11月 1日 (火)

王立宇宙軍オネアミスの翼4Kリマスター版を観て



映画館で観てきました

これは名作です

いい歳こいてアニメを語るのもどうかと思いますがこれは名作と思います。オリジナルは1987年に公開された120分の劇場長編アニメーションですが私はその当時映画館に足を運ぶことはありませんでした。存在すら知らなかった。でもその後に発売されたLDを引き寄せられるように買い求めその映像の世界観に圧倒された記憶があります。そんな作品が35年を経て4K版で劇場にて再上映されるという。これは逃せませんでした。

多くの評論家がそのデキを称賛していますが正直に言って興業的には成功したとは言えない作品だった。製作費回収に15年も掛かったそうですが15年掛けて黒字にできれば立派なものか。まぁ世間の評価はさておき自分のハートにどう刺さるかが問題です。

映画としては知る人ぞ知るのマイナー作品であることは間違いない。リニューアル作品であっても集客できるのは知れた動員数であるのは興業主も織り込み済みで上映期間はわずかに1週間。インディーズ映画並みです。この機を逃したらもう劇場スクリーンで観られることも無いでしょう。今年ヒットしたトップガンマーヴェリックなんて5月に公開して11月になってもまだ上映中ですが比較はできませんがね。

予想した通り映画館の入りはたいしたことはありませんでした。アニメなんてのは若い世代やカップルが多くて当たり前なのだけれど周囲を見れば35年前の青年ばかり。これはある意味一種異様な光景かも。恐らくは皆ご自宅のメディアで何度もこの作品を観た人達でしょう。ストーリーやシーンはすでに隅々まで知ってはいても劇場のスクリーンで作品を受け入れたい。そんなところでしょうか。エンドロールに流れる坂本龍一のエンディング曲が終わり館内照明が点くまで誰一人として席を立つ人はいませんでした。

Cinema
4Kできれいな絵になったかと言えば元のセル画の限界もありそんなにディティールがはっきりしたようには見えませんでしたね。でもサウンドはすばらしかった。こんなにも各シーンのバックグラウンドノイズにこだわっていたなんて映画館で観るまで気が付かなかったですよ。自宅のテレビで観るのとは違って映画館レベルの音量は音像のリアリティが際立ちます。

今やアニメーションは一大ビジネスになりました。映画やメディア化は当然としてキャラクターグッズや関連商品の販売まで視野にスポンサーは製作資金を提供する。この作品はバンダイがスポンサー。ガンダムのような大ヒットを願っていたことでしょう。
ガンダムはキャラクター商品が世に溢れ等長大のロボットまで出来てしまうほどの強力な版権を持つ作品になった。でもこの作品はそうはならなかった。スポンサーに完成披露をした当初、2時間の作品を1時間半に短縮しろとの指示が出たとか。当時のTV放送枠やビデオテープ記録容量を睨んだものでしょうがそこは製作側が土下座してかわしたという後日談を聞いた。スポンサーもプロです。一見してこの作品は一般受けはしないだろう、つまりは製作資金提供をして失敗したと判断が付いたことでしょう。

本作品は今のアニメーションを好む層が求めるベクトルとは少し違う方角を向いています。派手なドンパチをするシーンは最後だけでストーリー的にはダルな部分が多い。1960年代の社会やテクノロジーをモチーフとした異なる世界の物語だけど、この時代背景への社会風刺さえも感じられる。ヒロインはアニメ美人には描かれず一般向けアニメにしては珍しい性風俗や宗教的な色彩が色濃く出るシーンもある。それらは全て終盤に向けての伏線なんですがね。今の映倫だったらR指定が確実に付きそうなその内容は、やはり難易度の高い大人向けの作品だったと言えるかもしれません。

評論家はセル画でここまで詳細を描けているのは素晴らしいと言う。私も35年前にこれだけの映像表現が出来ていたことには大いに評価に値すると思う。でも観る側からすればセル画だろうがCG描画だろうがそんなことを気にしながら映画を見ているわけではない。没入感のあるキャラクターやストーリー性、適度なテンポと盛り上がりが大きなポイントとなるはず。映像表現はそのための手段となる。この作品ではそのポイントのうちのひとつかふたつが広く衆目を対象とする作品としてはやや希薄だったか、もしくはバランスを欠いていたように見えました。

製作会社GAINAXで本作品を作ったスタッフの平均年齢は24歳だったという。若い彼らが高い理想で作り上げた作品でありその想いは観る者に響く作品となるべきものだった。でも一般受けというヒエラルキー全体に響くものとはならず興業としては失敗作となった。でも私には響きましたよ。メジャーになるばかりが道ではありません。ヒット作になるということと歴史に残る名作になるということは別次元の話です。ただし映像ビジネスとして成立してもらわねばいけませんがね。

この作品を今のアニメ世代が観たらどんな感想を持つのだろうか。35年前の青年を物差しにした作品ではありますが、普遍的な価値観は時を超えて世代を超えて確かに存在するであろうと私は信じるものであります。

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